投手の能力を表す指標として最も使われるのが防御率です。防御率を理解することができれば、その投手がどれほどの能力を有しているかが分かり、野球観戦をより楽しめるでしょう。
最近では球場でも防御率が表示されるようになっています。
では、防御率とは具体的に何を表す指標でどのように算出するのでしょうか。
この記事では防御率の求め方・防御率と関わりのある自責点・好投手に求められる防御率の数値を簡単にご紹介します。
この記事を読めば防御率の算出方法・目安、失点と自責点の違いを詳しく理解できます!
防御率とは?
防御率とは、その投手が1試合(9イニング)を投げたとしたら平均何失点するかを表す指標です。その基準となる失点が自責点です。自責点とは簡単に言えば、エラーや捕逸が絡まない失点のことをいいます。
それでは、防御率の算出方法を説明します。防御率は次の式で算出します。
【防御率の算出方法】
防御率 = 自責点×9÷投球回数
非常に単純な式で、式からも防御率の意味が理解できますね。
このように防御率は自責点を基に算出するので、もし10失点したとしてもすべてにエラーが絡んでいたとしたら防御率が悪化することはありません。(理由は下の章で分かります)
算出された防御率を用いて「~点台の防御率」などど評されることがあります。
例えば、「2点台の防御率の投手」と評される選手がいれば、その選手は9イニング当たり自責点を3点未満に抑えることができる、といったことになります。
また、野球では投球回数が必ず整数になるとは限りません。
1アウトを取って降板した場合は1/3回とあらわし、2アウトを取って降板した場合は2/3回とあらわすように分数を用いて投球回を表します。
例えば、2020年の森下投手の投球回は122・2/3回で自責点は26失点でした。
そのため、森下投手の2020年の防御率は26×9÷122・2/3=1.907となります。ルーキーながら9イニング当たり2自責点未満に抑えることができるという投手でした。
2020年の森下投手、あらためてすごいですね!ルーキーながら最優秀防御率のタイトル争いに絡んでいたのは素晴らしいです!
防御率とは、その投手が9イニング(1試合)を投げたとしたら何点に抑えられるかを示す指標です。その基準となるのが自責点で、自責点とは失策や捕逸などが絡まない、投手が責任を負わなければならない失点のことです。
防御率が1点台の投手とは9イニングあたり自責点を2点未満に抑えているということになります。
記録の計算方法 | 野球の記録について | NPB.jp 日本野球機構
自責点とは?失点との違い
自責点とは簡単に言えば上述の通りエラーや捕逸が絡まない失点のことをいいます。
これだけでは失点との違いが分かりにくいですよね。
まず失点とは相手チームが得点した時に投手に記録されるもので、失点の仕方にはタイムリーヒット、味方のエラーが絡んでいるなど関係ありません。
相手チームが得点すると、自チームのいずれかの投手に必ず失点が記録されます。
ここまでは「相手チームの得点=自チーム投手の失点合計」と非常に簡単ですが、自チームのどの投手に失点がつくのかという点がややこしいです。
どういった場面でややこしくなるのか?それは投手交代が行われた時です。
投手交代時の失点の記録では「得点したランナーを出塁させた投手に失点が記録される」ということを覚えておきましょう。
例えば、投手Aがツーベースヒットを打たれてランナー2塁(走者C)となり、その状況で投手Aから投手Bに交代するとします。交代登板した投手Bが次の対戦相手にタイムリーヒットを打たれた場合、この時の失点は得点したランナー(走者C)を出塁させた投手Aの失点となります。
【例】
- 1アウトランナーなしから投手Aがツーベースヒットを打たれる
- 投手Aから投手Bへ交代
- 1アウトランナー2塁から投手Bがタイムリーヒットを浴びて失点する
⇒投手Aに失点が付き投手Bには失点が記録されない。
自責点とは?
自責点は失点の中でも投手に責任のある失点のことをさします。
そのため、味方チームのエラーが絡んだ失点は自責点として記録されず、安打や四球、犠飛、犠打など以下のプレーによって記録された失点が自責点にカウントされます。その他、パスボール・打撃妨害・走塁妨害によって失点した場合も自責点とはなりません。
【自責点にカウントされるケース】
- 安打、本塁打
- スクイズ
- 犠牲フライ
- フィルダースチョイス
- ボーク
- 冒頭
- 内野ゴロアウト間の失点
【自責点にカウントされないケース】
- エラーによる失点
- パスボールによる失点
- 打撃妨害による失点
- 守備妨害による失点
- エラーによって出塁したランナーが得点した際の失点
投手がエラーして出塁したランナーも自責点にカウントされません!
基本的には上記のように覚えていただければ問題ありませんが、「エラーが絡んだ失点は自責点に記録されない」という解釈に特別ケースがあります。
2アウト後のエラーがあれば自責点にはならない!?
2アウト後に味方チームのエラーによって出塁があった場合、その後の失点はいくらしようと自責点にはカウントされません。
これは「本来ならばスリーアウトチェンジとなっていたはずなのに、味方チームのエラーによってチェンジとならずに失点に繋がったので投手に責任はない」といった考えによるものです。
例えば、2アウトランナーなしの場面でサードのエラーにより出塁を許したとします。
その後、投手が打たれ続けて5失点したとしても自責点は0となります。極端に言えば、100失点しようが投手交代しない限りは自責点は0のままなのです。
ただ、2アウト後のエラーの後に満塁のピンチを迎えた場面で、投手がAからBへ交代しBが満塁ホームランを打たれた場合はAの自責点は0点、交代してホームランを打たれたBは自責点1とややこしいので注意が必要です。
1アウトの場合も同じ考えが適用され、1アウト後に連続エラーでランナー二人を出塁させたとします。この時も、「本来ならば(2つのエラーがなければ)スリーアウトチェンジになっていた」ということになるので以降の失点は投手交代しない限り自責点にはカウントされません。
例えば、1アウトランナーなしの場面でサードがエラーしランナー1塁になります。そして、1アウトランナー1塁からショートのエラーにより1アウトランナー1,2塁となったとします。その後連打を浴びて5失点したとしても投手の自責点は0となります。
【例①】
- 2アウトランナーなしからショートがエラーをしてランナーが出塁する(投手A)
- 投手Aが連打を浴びて5失点する
⇒投手Aの失点は5、自責点は0となる
【例②】
- 2アウトランナーなしからショートがエラーをしてランナーが出塁する(投手A)
- 投手Aが連打を浴びてツーアウト満塁となり、投手Bへ交代
- 投手Bが満塁ホームランを打たれる
⇒投手Aの失点は3、自責点は0。投手Bの失点は1、自責点も1
【例③】
- 1アウトランナーなしからショートがエラーをしてランナーが出塁する(投手A)
- 1アウトランナー1塁からサードがエラーをしてランナーが出塁する(投手A)
- その後、投手Aが連打を浴び5失点する。
⇒投手Aの失点は5、自責点は0
エラーが絡んだ失点でも自責点となるケースも
基本的に「エラーが絡んだ失点は自責点にならない」との考えですが、エラーが絡んでも自責点へ記録されるケースがあります。
例えば、1アウトランナー3塁の場面で打者がセカンドゴロを打つとします。この時、セカンドがエラーしランナーの生還を許した場合は、自責点にカウントされる可能性があります。
このセカンドゴロがセカンドの守備位置が深いなどで「仮にバックホームしていたとしても三塁ランナーはアウトになっていなかった」というような打球であれば、エラーがなかったとしても【自責点にカウントされるケース】の「内野ゴロアウト間の失点」に該当していたと考えられ自責点にカウントされます。
一方、セカンドが前進守備をしておりバックホームできていれば三塁ランナーは得点していなかった=失点は防げていたという場合は「野手のミスによる失点で投手に責任はない」との考えのもと自責点にはカウントされません。
かなりややこしいですが、少し注意が必要なケースです。
ちなみに、上記のようなケースの自責点の判定は公式記録員の判断によるものなので正式な基準はありません。
公式記録員とは、プロ野球の試合でヒットやエラーといった選手のプレーに対する「記録」を判断して付ける方のことを言います。
【そのほかの例】
- 1アウトランナーなしからスリーベースヒットを打たれる
- 1アウトランナー3塁からセンターへフライを打たれるが、センターがフライを落球し得点をゆるす
⇒センターがキャッチしていたとしても犠牲フライになっていたと考えられる場合は、自責点にカウントする。フライが浅く、センターがキャッチしていれば得点はなかったと考えられる場合は自責点にカウントしない。
自責点の概念は野球経験者でも完璧に理解できている方は少ないと思います。特に、上記2つの特別なケースはあまり知られていないのではないでしょうか。
防御率の目安
上記の概念を基に自責点は記録され、その自責点をもとに防御率は算出されます。
では、防御率とはどのくらいだと”好投手”と考えられるのでしょうか。こちらでは、防御率の目安をご紹介します。
防御率 | 目安 |
0点台 | 非常に素晴らしい |
1点台 | 素晴らしい |
2点台 | 優秀 |
3点台 | 並 |
4点台 | 悪い |
5点台 | かなり悪い |
個人的な主観も入っていますが、上記の通りに捉えるのがよいかと思います。
ただし、防御率を見るときはイニング数も確認する必要があります。1イニングだけを投げての防御率0点台と150イニングを投げての防御率0点台だと後者の方が価値があります。イニングが増えるにつれて失点してしまう可能性も高くなるからです。
そのため、先発投手は上記の表で評価するのがいいかもしれませんが、先発投手より投球回の少ない中継ぎ陣はこの表より少し評価が厳しくなるかもしれません。
防御率のタイトル「最優秀防御率」
防御率に関わるタイトルとして「最優秀防御率」があります。
これはその年に最も防御率がよかった投手が受賞することができるタイトルです。
ただ、この最優秀防御率のタイトル獲得には条件があります。その条件とは規定投球回の達成です。
規定投球回とは投手が最優秀防御率のタイトルを獲得するために必要な投球回のことです。
規定投球回とは次のように設定されています。
【規定投球回】
- 一軍の規定投球回=所属球団の試合数×1.0
- 二軍の規定投球回=所属球団の試合数×0.8
プロ野球の公式戦は基本的に年間143試合なので、1シーズンの規定投球回は143イニングとなります。
2021年シーズンの規定投球回達成者数はセリーグで9人、パリーグで14人のみと達成することがいかに難しいか分かりますね。
歴代シーズン防御率ランキング
歴代シーズン防御率ランキングでは上位に戦前の選手が多く、近年の選手の名前が全くありません。
さらに、1970年代以降は防御率0点台の投手もいません。
これは、プロ野球のレベルがあがっていることが要因の一つとも考えられます。
<歴代防御率ランキングTOP10>
順位 | 投手 | 所属 | 防御率 | 年度 | 投球回 |
1 | 藤本 英雄 | 巨 人 | 0.73 | 1943 | 432.2 |
2 | 景浦 将 | タイガース | 0.79 | 1936秋 | 57 |
3 | 沢村 栄治 | 巨 人 | 0.81 | 1937春 | 244 |
4 | 野口 二郎 | 大 洋 | 0.88 | 1941 | 338 |
5 | 林 安夫 | 朝 日 | 0.887 | 1943 | 294 |
6 | 森 弘太郎 | 阪 急 | 0.889 | 1941 | 333.1 |
7 | 野口 二郎 | 翼 | 0.93 | 1940 | 387 |
8 | 景浦 将 | タイガース | 0.931 | 1937春 | 106.1 |
9 | 須田 博 | 巨 人 | 0.97 | 1940 | 436 |
10 | 村山 実 | 阪 神 | 0.98 | 1970 | 156 |
2000年以降に限れば、1.50以下の投手はわずか3人のみです。2回も達成している田中投手すごいです!
<2000年以降の防御率ランキングTOP10(防御率1.50以下の投手限定)>
順位 | 投手 | 所属 | 防御率 | 年度 | 投球回 |
1 | 田中 将大 | 楽天 | 1.272 | 2011 | 226.1 |
2 | 田中 将大 | 楽天 | 1.273 | 2013 | 212 |
3 | 山本 由伸 | オリックス | 1.394 | 2021 | 193.2 |
4 | ダルビッシュ有 | 日本ハム | 1.435 | 2011 | 235 |
1位と2位の田中投手、投球回が200イニングを超えての防御率1.2台は圧巻ですね。。。
過去5シーズンの最優秀防御率のタイトル受賞者は以下の通りです。いずれも今の日本を代表する好投手であることが分かります。
<過去5シーズンの最優秀防御率獲得投手>
セ・リーグ | パ・リーグ | |
2017 | 巨人・菅野智之(1.59) | 西武・菊池雄星(1.97) |
2018 | 巨人・菅野智之(2.14) | 楽天・岸孝之(2.72) |
2019 | 中日・大野雄大(2.58) | オリックス・山本由伸(1.95) |
2020 | 中日・大野雄大(1.82) | ソフトバンク・千賀滉大(2.16) |
2021 | 中日・柳裕也(2.20) | オリックス・山本由伸(1.39) |
続いて、カープで最優秀防御率を獲得した選手をまとめました。カープを支えてくれたエースの名がずらりと並んでいます。
<過去のカープの最優秀防御率獲得投手(1990年以降)>
選手名 | 防御率 | 投球回 | |
2015 | クリスジョンソン | 1.85 | 194 1/3 |
2013 | 前田健太 | 2.10 | 175 2/3 |
2012 | 前田健太 | 1.53 | 206 1/3 |
2010 | 前田健太 | 2.21 | 215 2/3 |
2006 | 黒田博樹 | 1.85 | 189 1/3 |
1997 | 大野豊 | 2.85 | 135 2/3 |
1991 | 佐々岡真司 | 2.44 | 240 |
日本で3度も最優秀防御率のタイトルを獲得している前田健太投手はあらためてすごいと思いました。
また、とても狭くホームランが出やすい広島市民球場を本拠地としていた2006年に防御率1点台を達成していた黒田投手もかなりすごいです!
まとめ
防御率や失点・自責点の違いについて理解できましたでしょうか。
防御率は自責点を基に算出する指標で、自責点とは失点の中でも投手に責任のある失点のことを言います。
防御率は投手の指標の中で最も馴染みのある指標であり、この目安を理解できればその投手がどんな投手かより分かると思います。
防御率について理解を深めて今後のプロ野球を楽しみましょう!
野球の指標に関する記事として、OPS・長打率・出塁率を簡単に説明した記事もあるので、もっとプロ野球を楽しみたい方はそちらの記事もご確認ください。
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